

2006年入社
生活資材・化学品カンパニー
LLC ITR出向(モスクワ駐在)
2009年8月、伊藤忠は横浜ゴムと共同でロシアにタイヤ生産販売会社を設立。2011年中にはタイヤ工場が完成し、成長が期待されるロシア市場におけるヨコハマタイヤの生産販売事業を拡大させていく。その中で柱の1つとなるのが、現地タイヤショップである『TIRE PROS』ブランドを確立させ、ロシアでの小売店運営ノウハウを構築していくことである。そのミッションを現場の最前線で担う男がいる。
逆境だらけのスタート
「いくら伊藤忠広しと言えども、ここまで現場に入り込んでやっている社員はなかなかいないと思いますよ」。
笑みを浮かべながら鈴木はそう話す。それもそのはず。鈴木の現在の肩書きは、『TIRE PROS』の店長なのである。店舗数はまだ2つ。ロシアはおろか、モスクワの街でさえも知名度はほとんどないと言っても過言ではない。その中で鈴木は2号店の店長を任され、『TIRE PROS』ブランドを確立すること、そしてロシアにおける小売店運営ノウハウを構築するというミッションを担っているのだ。店舗の従業員数は10名。もちろん全員ロシア人である。前任の店長もロシア人だった。ここで想像してみてほしい。あなたが従業員だとして、店長がいきなり得体の知れない外国人に代わるのである。しかも何とか日常会話が通じる程度のロシア語しか話せないのだ。いきなり信頼しろというほうが難しい。
「いやぁすべてが逆境でしたね。しかも赴任したのが2010年の10月。1年でもっとも忙しい冬のシーズンを直前に控えた時期でしたから」。
案の定、すべてが順調にいくはずもなかった。
「ロシアに来て気づいたのですが、ロシアでの人間関係で信頼関係ほど重要なものはないんです。それは日本とは比べものにならないほど。一度信頼されればそれこそ家族のように接してくれるのですが、信頼できない相手には耳も貸してくれない。当然、店長としてやって来た当初は誰も言うことを聞いてくれない状態でしたね」。

背中で伝えていくしかない
「ロシアの中で一番質の高いお店にしたい」。そんな鈴木の想いは赴任早々足元から崩れようとしていた。
「サービス面においても、日本のような質の高いサービスと比べればその差は歴然。お客様への挨拶や接客内容、それから店舗を常に清潔に保つことなどすべての面で課題を感じました。それから日本では当たり前のように行う朝礼をやろうとしてもロシアにはその習慣がなく、『そんな意味のないことは止めてくれ』なんて言われたりもしましたね」。
スタッフと意見が衝突するのは日常茶飯事。理想とは程遠い現実に葛藤する日々が続いた。
「正直、その頃はすごく苦しかったです。でも自分が目指しているお店ができればお客様はきっと増えると信じていましたし、まったく知名度がないからこそ、この『TIRE PROS』ブランドを確立させることに燃えるものはありましたね」。
ある時、鈴木は心に決めた。どのスタッフにも負けないほど現場でがむしゃらに働こうと。信頼されるためには言葉で説得するのではなく態度で示すしかないと思った。従業員が渋々参加していた朝礼もしつこく意義を説明しやり続けていた。その朝礼で鈴木はある工夫をした。情報共有の他に、従業員の励みになればとお客様から拾った感謝の声も伝えるようにしたのだった。すると、こうした工夫やひたむきに働く鈴木の背中を見たロシア人スタッフたちの行動に徐々にではあるが変化が見られたのだった。

噛み合ってきた歯車
鈴木はプライベートの時でも常に持ち歩いているモノがある。それは、『TIRE PROS』の販促グッズである。「職業病ですよ」と鈴木は笑うが、通る車のタイヤがどうしても気になってしまうらしい。
「仕事中もそうでない時間もやっぱりチェックしてしまいますね。時々停まっている車のタイヤをジーッと見ていると、持ち主が慌てて飛んできて『何やってるんだ!』なんて言われたり。特に日本人なんてモスクワでは珍しいですから余計に怪しまれます。そんなときにプレゼントとしてグッズを渡すんですよ。まぁ防衛策ですね(笑)」
そんな鈴木にとって最近嬉しかったのが、「『TIRE PROS』周辺でヨコハマタイヤを履いた車が増えてきたこと」。そして「従業員との関係が劇的に変化したこと」だと言う。
「なんとか信頼してもらえるようになってきたみたいです。わずか3ヵ月ほどで驚くほど変わりましたよ。おそらくスタッフ自身が、サービスの質を上げることでお客様に喜ばれることを実感したのだと思います。今では自ら率先して商品をお客様に提案したり、店舗の清掃も積極的に行ってくれています。朝礼もすっかり習慣になりましたね。それからお客様の反応も変わってきました。『ここのお店は最高だ』と言って頂けたり、お客様が知り合いを連れてきてくれたり。それがまたスタッフたちのモチベーションにもつながっていて、今はすべてがうまく回りはじめたと実感しています」。

ロシア中に『TIRE PROS』を
苦しい日々を乗り越え、「ロシアの中で一番質の高いお店」に向けて手応えを感じはじめた鈴木。その一方でまだまだ課題もあると感じている。
「2011年中にタイヤ工場が完成する予定なので、販売網を急速に拡大していく必要があります。そのためには『TIRE PROS』の店舗数をもっと増やす必要もありますし、店舗運営ノウハウもしくみとして構築しなければなりません。やるべきことはまだまだたくさんあります。でも、この数カ月間の経験というのは本当に大きかったです。こういう現場の最前線で仕事をするというのは非常にエキサイティングですし、そこでつかみとった生きた知恵は今後に必ず活きてくると思います」。
いつかロシア中の人が『TIRE PROS』のファンになってくれることを、そしてロシアの多くの車の足元にはヨコハマタイヤのロゴがあることを目指し、鈴木は今日も現場の最前線で奮闘している。そしてその先に描くのは「ロシアをはじめとするCIS諸国のスペシャリストになる」という未来。
「ロシアにはまったく縁がなかったのですが、人と人の結びつきが強くてとても好きになりました。親日家も実は多いんです。それにこれからAPECやソチ五輪、ワールドカップと世界から注目されるイベントが続きます。成長を目の当たりにしながら、いつかロシアやCIS諸国と日本を結ぶようなビジネスを手がけてみたいですね」
現場の最前線にいる鈴木は、近い将来ロシアをはじめとするCIS諸国とのグローバルビジネスの最前線に立っているのかもしれない。




