Project of 高級原料ブランド『ぺルヴィアンピマ』 ペルーで見つけた希少コットンと日本のセレクトショップを結び新しいブランドを創造

繊維カンパニー

山村智則

山村智則

繊維カンパニー
ファッションアパレル第二部
ファッションアパレル第一課長代行

大橋和史

大橋和史

繊維カンパニー
ファッションアパレル第三部
繊維原料課

超長綿とよばれる繊維長の長い綿花の一種である、ペルー産の高級ピマコットン。年間生産量は綿花全体の0.02〜0.03%という希少性の高いこの原料を、『ペルヴィアンピマコットン』として伊藤忠商事が国内でブランディング。セレクトショップを中心に展開することで、ファッション業界注目の原料ブランドとしての地位を確立した。成功の背景には、互いに引き寄せ合った、社内にある2つのチームの想いがあった。綿や糸などの繊維原料を扱い、海外に広いネットワークを持つ繊維原料課。そして、アパレル製品をつくり、セレクトショップなどに販売するファッションアパレル第一課だ。消費者視点での原料取引のあり方を模索していた繊維原料課と、素材の差別化で強みを打ち出したいファッションアパレル第一課がタッグを組み、業界に新たな風を吹き込んだ挑戦を紹介しよう。

ビジネスチャンスという宝物は
社内に眠っている

日本から見て地球の裏側、南アメリカ大陸にあるペルー共和国。綿花生産の歴史は古く、中でも少雨高温という恵まれた気候の中で育まれたペルーのピマコットンは独特の柔らかな風合いに特徴があり、繊維原料課の大橋は以前から注目していた。「ピマコットンといえばアメリカ産が有名ですが、良質なピマコットンがペルーにもあることは知っていました。希少価値も高く、消費者に受け入れられる可能性も十分にある。しかし糸を輸入して販売するだけでは、消費者に価値を訴求することにはならない。その上距離という物理的な壁があり、運送コストを考えると中途半端なことはできない。どうすれば活路を拓いていけるかに頭を悩ませていました」。一方、セレクトショップを中心に強い顧客基盤を持つ、ファッションアパレル第一課の山村は、他社と差別化を図るための独自素材を求めていた。「セレクトショップとの取引を通じ、製品の企画提案力を磨いてきましたが、ライバル会社との明確な差別化のために、何か新たな提案ができないかと考えていました。伊藤忠の強みはなんなのか。原料や素材で差別化はできないか。社内にその宝が眠っているはず。そんな時に、ペルーのピマコットンの話を聞いて、これだと思ったんです」。それぞれのチームの想いが重なり、互いに引き寄せられた。これは、コンビを組めば面白いビジネスになる。直感的にそう感じた両者は、すぐさまプロジェクトをスタートさせた。

成功の裏側にあった
リスクを背負う覚悟

ぺルーのピマコットンをブランディングし、ファッションのトレンドセッターともいえるセレクトショップを中心に展開する。話が持ち上がってすぐに大橋は現地ペルーへ飛んだ。日本のファッションマーケットにおいて、製品のオーダーを受けてから動き始めるのでは、到底間に合わない。このプロジェクトの実現には、現地サプライヤーの協力を得る為にも先行投資をすることが必要不可欠だった。「一般的な衣料品のオーダーは数百枚から数千枚規模。一方、原料の取引は最小単位が1コンテナ、つまり衣料品数万枚に相当します。まず、ペルーの原料サプライヤーに我々の本気度を伝え、協力体制を確立するために、コンテナ1本分の糸をその場で買い付けて輸入しました。製品のオーダーがない中、リスクはありましたが、このプロジェクトに手応えを感じていたからこその判断でした。このように新たなビジネスに挑戦させてくれるのは、伊藤忠商事ならではの醍醐味だと思いますね。この決断によって、ペルー側との関係も良くなっていきました」。一方、山村は別の壁にぶつかっていた。このプロジェクトは、上質な素材で製品をつくるというだけでは成功しない。触らなければわからない品質の良さを、一般消費者にどうやって伝えるのか。一番重要になるのは原料そのもののブランディングだった。「日本でブランドと言えば、欧米のファッションブランドが一般的ですが、ヨーロッパでは優れた素材メーカー自体がブランド価値を持っており、ファッションデザイナーと同等の価値をもって支持されているんです。こうした土壌が整っていない日本マーケットで、原料をブランドとして浸透させるには、それ相応のしかけが必要だと感じました」。ぺルーのピマコットンはその希少性に加えて、古来からの採集方法が今なお続けられているなど、ブランディングをするには最良のストーリーがそろっていた。これらをいかにして訴求していけるか。勝負は、お披露目となる2014年5月の展示会にかかっていた。

ペルーの世界観に包み込む
ブランディング展開

展示会の招待客は、セレクトショップを中心とした小売店のバイヤーやデザイナーなどだ。山村のチームは、展示会に向けて生地メーカーや海外の縫製工場など多くのメンバーを取りまとめ、シーズンのトレンドに合った製品コレクションを企画していった。さらに、ブランディングに必要なしかけについても、細部にまでこだわった。まずは、パッと見で興味を惹きつけるためのデザイン性。展示会の招待状から配布する冊子まで、ペルーの伝統や神秘性をうかがわせるようなデザインで作り上げた。また、『ぺルヴィアンピマ』製品に付けるロゴマークやタグもオリジナルで制作。展示会の会場レイアウトについても社内でデザインチームを組み、ショップの売り場をイメージしてつくりこんだ。出来上がった会場は隅々までペルーの世界観にあふれ、招待客を包み込んでいった。「どうすれば『ぺルヴィアンピマ』の魅力をもっと打ち出し、伝えることができるのか。展示会場のセッティングは、セレクトショップの顧客層でもある、若手社員を中心にまかせました。彼らの感性を大事にしたいと思ったんです」。展示会場には、200名近くのお客様が来場し、大盛況のうちに幕を閉じた。メディアでの反響も大きく、それぞれの業界で注目を浴びることとなる。全員が強い信念を持って進めたプロジェクトだが、展示会が始まるまでは不安も少なくなかった。最初はすべてが手さぐり状態だったが、終わった後、全員の想いが不安から確信に変わっていったという。その後、各顧客に対してブランドイメージやターゲットに合わせた具体的な製品提案で受注を重ね、原料の輸入量も年々増加している。ファッション業界はトレンドの移り変わりが目まぐるしい。常に新しいものを求めているバイヤーやデザイナーに向けて企画をブラッシュアップさせ、飽きさせない工夫を凝らしながら展示会も回数を重ねている。春夏シーズンが主流のコットン素材に対して、秋冬シーズン向けに新たにオーストラリア産ウール素材もブランディングし、伊藤忠独自の原料ブランドとして展開。2015年秋冬向けにセレクトショップ限定素材として打ち出した「ハミルトンラムズウール」が高評価を得るなど、成功の手ごたえを感じている。

最高のチームで築き上げた新たな道

「絶対に、単独では成し得なかった」と、山村と大橋は口をそろえて言う。繊維カンパニーという同じ領域でありながら、原料と製品という異なるフィールドで事業を支えてきた二人は、それぞれライバル関係でありながら、このプロジェクトを通してお互いの強みに共感し、良い補完関係を築いて最高のチームを作った。伊藤忠商事の独自素材として、胸を張ってお客様に提案できることが何よりも大きい、と山村は語る。「実際に、原料の栽培から製品化まで一貫してトレーザビリティが確保できるのは、“かっこよさ”とか“品質”と同じくらい重要なこととしてマーケットから求められています。製品部隊には、海外で原料を確保するようなネットワークはありません。繊維原料の取引は伊藤忠商事の祖業。150年を超える歴史の中で培ってきた経験とネットワーク、バイイングパワーがあってこそ、実現したのだと思います」。このプロジェクトに可能性を見出し、リスクを張って原料輸入に踏み切った大橋も、これをきっかけに新たなチャンスを見出している。「展示会でのセレクトショップへのアプロ―チは、我々には考え付かないアイデアにあふれていました。打ち出し方を変えるだけで、こんなに人が集まってくださるんだと感動しましたね。セレクトショップ店頭での販売で認知度が上がり、今では他のお客様からも『ぺルヴィアンピマを使いたい』というお問い合わせが増えています。こういう形をつくるのが、僕らの理想。従来型のスケールの大きい原料取引も重要ですが、今後はこうしたビジネスモデルを広げていくことが、我々原料部隊の進むべき道だと手応えを感じています」。国内マーケットへの原料ブランド発信は一つの成功パターンとして形になりつつあるが、まだゴールではない。社内のテキスタイル部隊や日本の各産地との協業、さらには、伊藤忠商事の強みである海外マーケットへの参入も視野に、彼らの挑戦は続いていく。

ひとりの商人、無数の使命