繊維カンパニー

Project

M&Aとトレードの両輪で
グローバルにビジネスを拡大

サステナブル素材のバリューチェーン構築事業

 
  • 繊維カンパニー
  • ファッションアパレル第三部長
森田 洋Hiroshi Morita
 
  • 繊維カンパニー
  • ファッションアパレル部門
    ファッションアパレル事業室
藤田 佳紀Yoshiki Fujita
 
  • 繊維カンパニー
  • ファッションアパレル第三部
    繊維原料課
降矢 安那Anna Furuya
近年のファッション業界では、地球温暖化問題が国境を越えた共通課題となるとともに、世界的な需要拡大により素材の供給が追い付かない時代が訪れるという予測もあり、環境負荷の小さい製造法の開発、リサイクル可能な素材の活用などに取り組んでいる。世界的に進むSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を重視した経営の取り組みの中で、この流れは今後さらに加速していくことは確実だ。
このような状況のもと、ファッションアパレル部門では、競争力のあるサステナブル素材を武器に、伊藤忠商事が保有する原料から製品までのバリューチェーンを活かし、マーケットインの発想を持ち、原料起点で小売りとの取り組みを強化するプロジェクトを推進。その中心的役割を果たす森田・藤田・降矢の3名に話を聞いた。
サステナブル素材の
普及に向けて
開発企業を支援

ファッションアパレル部門では、サステナブルな素材の開発・製品化に向けて、パートナー企業との提携を推進している。一つ目は、不要になった衣服を回収し、ポリエステル繊維の原料となる樹脂にリサイクルする技術を開発したベンチャー企業に出資したこと。二つ目は、フィンランドの森林業界大手Metsa Groupが開発した環境負荷の低いセルロースファイバーのパイロットプラントの共同設立。現在、工場の稼働に向けて準備を進めている。三つ目は2019年春、中国のパートナー企業と共同で米国・インビスタ社の主な繊維事業を買収したことだ。

インビスタ社の“伸びる繊維”「ライクラ」は兼ねてより数多くのグローバルブランドが継続的に使用している。本出資の目的は「ライクラ」の知名度を武器に、サステナブルな素材を共同で開発し、グローバルブランドに訴求していくこと。ファッションアパレル部門のアジア地域における素材開発から製品化までのバリューチェーンを活用し、付加価値の高い製品として世界の消費者に提供しようとしている。「サステナブルは、ファッション業界において今後、大きなビジネスチャンスになることは確実です。私たちは創業以来160年間培ってきた繊維ビジネスの目利き力をもとに、先進的な原料を開発する企業に相次いで投資しています。これらの投資先企業と共同で、原料から製品までのバリューチェーンをグローバルに構築することで収益化を図っていきたいと考えています」(森田)。

グローバルなM&A交渉に
総合商社ならではの強みを発揮

「パートナー企業への出資やM&Aは、将来のリスクとリターンの見極め、投資スキームや出資・撤退条件、各国の法規制や対象会社のガバナンス体制等、クリアすべき事項が数多くあります。それらの交渉においては関係当事者の意見を聞き、譲れるポイント・譲れない条件を把握し、なおかつ伊藤忠商事としてメリットが得られる条件を探しながら落としどころを見つけていく、という作業を粘り強く行う必要があります。また、インビスタ社の案件では、中国企業と米国企業との間にあるビジネスに対する考え方や文化の違いを踏まえながら、伊藤忠商事がどのような形で参画するのが関係者にとって最適解であるのかを導き出すのに非常に苦労しました。そこで、まず複雑に絡み合った関係者の思惑や狙いを解きほぐして整理し、それぞれの考え方や、そこに至った背景をきちんと理解した上で交渉を進め、最終的には当事者それぞれが納得する形で合意に至りました。

その過程は大変ですが、どうすればビジネスがうまくいくかを考えることは面白いですし、タフな交渉にはやりがいも感じます。幸い、伊藤忠商事には、資金力やネームバリューだけでなく、長い歴史の中で培われた膨大な繊維ビジネスの経験とノウハウ、ネットワークがある。それらが条件交渉で有利に働くこともあり、そのメリットを最大限活用して交渉を進めることができました」(藤田)。このようにアメリカ・中国・日本が絡むグローバルなM&A交渉において成功を収めたのは、藤田の交渉力によるところも大きいが、総合商社ならではの強みを発揮できたからだろう。

大きなプロジェクトも
人と人の結びつきで
成り立っている

同プロジェクトのマーケティングを担当する降矢は2008年の入社後、モノづくりや営業に携わり、出産・育休を経て、ファッションアパレル部門の企画統括業務で部門内のさまざまな部署との調整役に従事し、2018年11月に繊維原料課に異動した。「繊維製品の生産工程と社内の会計ルールの両方を熟知している人材です」と森田は期待している。「プロジェクトを成功に導くためには、原料・生地・製造の各部隊を有機的につなげることで、それぞれの持つ機能をフルに発揮できるようにする必要があります。これまでは藤田さんが投資を実行するフェーズでしたが、これからは投資案件に関わる各組織をつなげ、新規顧客にリーチし、ビジネスを拡大していくことが私のミッションになります。森田部長からは繊維原料の知識を深めるだけでなく、事業全体を広く知り、俯瞰して物事を見るスキルを身に着けてほしいと言われており、毎日が勉強の連続です」(降矢)。「私たちはレバレッジをかけながら株主リターンの向上を追求する、いわゆる『投資ファンド』のような動きはしません。商社における投資は、ビジネスプランニングを起点とし、日々の商売で身につけた目利き力をもとにリスクを考慮した上で出資を行い、出資先のパートナーと連携しながらプロジェクトを動かし、パートナーの企業価値を上げていくということが基本です」(藤田)。

「サステナブルの潮流は、いずれ私たちの生活に浸透し、環境に配慮した素材を使ったファッションが当たり前の時代がやって来るでしょう。私は息子を持つ母親として、未来の地球を守るこのプロジェクトに携われることにやりがいを感じています。そして『環境素材といえば伊藤忠商事』と呼ばれることを目指して、私もその一助になりたいと考えています」(降矢)。今後、ファッションアパレル部門では事業提携を通じて新技術・新素材を導入する一方、日々のトレードの中から新規案件を創出し、トレードと事業投資の両輪でビジネスの拡大を目指していく方針だ。

三方よしの精神につながる
サステナブルな活動

伊藤忠商事は2018年、160周年を迎えた。会社の歴史は繊維カンパニーの歴史とイコールであり、繊維の原料ビジネスは祖業とも言える。その繊維業界を取り巻く市場環境が劇変する中で、ファッションアパレル部門は、いま一度ビジネスの原点に立ち戻り、『主導権を持つ原料起点のグローバルなバリューチェーン』を構築しようと、サステナブルを旗印にしたプロジェクトを展開している。「サステナブルは、創業者の伊藤忠兵衛が事業の基盤としていた近江商人の経営哲学“売り手よし、買い手よし、世間よし”の『三方よし』の精神につながります。その中の“世間よし”は、まさに環境に良い商品づくりであり、その精神を受け継ぐことが我々のミッションと捉えています」と話す森田。藤田のM&A交渉も三方よしの精神があったからこそ成功したのだろう。

「“伸びる繊維”やセルロースファイバーの工場への出資などメーカー的な動きも始まっています。このように商社の枠から飛び出して仕事ができることも、繊維業界で総合商社No. 1の事業規模を誇る当社の魅力のひとつです」と森田は続けた。現在、総合商社は、トレードから事業投資へとそのビジネスモデルのあり方をシフトしつつある。どのような事業パートナーを見つけ、いかにビジネスを進めるべきかを日々考えることが重要となっているのだ。「そのためにも、さまざまな人と出会い、数多くの交渉を経験し、ビジネスパーソンとしての基礎体力を積み上げていくことが大切です。商社のビジネスは裾野が広く、日々の業務の中でさまざまな経験を積むことができます」と話す藤田。「総合商社のビジネスは規模や金額の大きなプロジェクトが多く、『格好良く見えるところ』に目が向きがちですが、実際は人と人との地道な結びつきの上に成り立っています。プロジェクトに関わり、それを纏め上げることで、ビジネスパーソンとして、また人間としても大きく成長してほしいですね」と森田は締めくくってくれた。