金属カンパニー

Project

オーストラリアの鉱山に、
100年の夢を追い求める

西オーストラリア鉄鉱石事業

 
  • 金属カンパニー
  • 鉄鉱石・製鉄資源部
    鉄鉱石第一課長(取材当時)
小野澤 幸介Kosuke Onozawa
 
  • 金属カンパニー
  • 鉄鉱石・製鉄資源部
    鉄鉱石第一課(取材当時)
菅原 舞Mai Sugawara
伊藤忠商事では1960年代から50年以上に亘り、オーストラリアにおいて大手資源会社BHP Group社(以下BHP)と共同で、マウントニューマンなど複数の鉄鉱山ジョイントベンチャー(以下JV)を運営してきた。今回のプロジェクトは今後終掘に向かう主力鉄鉱山の代替となる、新たな鉱山を開発しようと立ち上げられた。そして数多くの鉱区の中から、顧客需要や要望を満たし、経済性を維持できる最適な鉱山として、西オーストラリアにあるサウス・フランク鉱山が選ばれたのである。2021年の生産開始から25年以上分の鉱量を有する鉄鉱山であり、鉄道や港湾の整備にまで及ぶ総額34億米ドルを投じる大型プロジェクトとなる。限られた時間の中で、如何にしてプロジェクトを推進したのか。先人の知見を引き継ぎ、壮大なスケールの鉄鉱石事業に賭ける想いを、プロジェクトを統括する小野澤と、チームを牽引する菅原に語ってもらった。
数々のスタディや
膨大な資料を読み解き、
全社一丸となって
プロジェクトを推進する

今回のプロジェクトは、34億米ドルという巨大資産のうち、BHPが85%の投資割当を有し、オペレーター兼マネージャーとして操業・JV運営・新規開発計画を立案するなど主導権を握る。8%を有する伊藤忠商事も、新たな設備の導入や販売戦略など、社内承認を得る必要があった。そのための申請準備が必要となるが、その過程において技術専門家を起用するなど、色々な課題をクリアしなくてはならなかった。「BHPや現地駐在員に問い合わせて、膨大な量の情報を入手し、それを資料に落とし込むのが大変でしたが、菅原さんがプロジェクトリーダーとしてやってくれました」(小野澤)。中でもBHPが様々なスタディをし、そのレポートがプロジェクトパートナーに開示されるのだが、それを菅原たちが読み解いて理解し、資料に反映するのが大変であった。「数百ページに亘る分厚いレポートで、その内容は専門性が高く、すぐに読み込めるような量ではありませんでした」(菅原)。

時間にも限りがある中で、過去の知見等もフル稼働してチームで読み解いていった。小野澤は経験値の少ない若手のマンパワーを如何に有効に駆使するか、如何に菅原一人に負担が偏らないよう配慮するかに腐心した。菅原自身も一人では抱えず現地駐在員に協力を仰ぎ、大型案件ということで、社内の職能部(財務・経理・法務)に相談しながら適切なアドバイスを得た。「人と人とのつき合いの中で、大事な情報を得ることができました」(菅原)。「彼女が関係者と良好な人間関係を築いていたからこそ、周囲からの協力を得ることができ、重要な情報を引き出せることができたと思います」(小野澤)。二人が言うように、タイトなスケジュールながら、全社一丸となってプロジェクトの承認にこぎつけたのだった。

安心・安全・安定という
当たり前。
町をつくり、地域に貢献する

かつて、西オーストラリアの鉱山業においては、鉱山会社が鉱山の周辺に町をつくる義務があった。それだけに、人々の安全と環境への配慮、そして地域住民、コミュニティへの対応が極めて重要なのである。鉱山現場においては、先住民や女性の雇用を促進している。最近では鉱山町ニューマンでのショッピングセンター建設にジョイントベンチャーとして寄与した。伊藤忠商事個社としては、ポート・ヘッドランドという港町において、スポーツやボランティア活動に貢献している若者を表彰するアワードにスポンサー提供している。「地域貢献の機会があれば、我々も喜んでやっていきたいと考えています」(小野澤)。また、鉱山から1,000キロ以上離れた州都パースから遠隔操作を行うなど、無人化・自動化を実現する先端技術を取り入れ、操業における安全面・コスト面における優位性を追求している。

マウントニューマン鉱山は、過去10年以上に亘り右肩上がりに拡張してきた事業だが、今後は終堀に向けて既存設備を有効活用しながら操業していくことになる。加えてサウス・フランク鉱山では25年以上にわたって高品質な鉄鉱石を安定して供給することができる。地域社会に与える安心、操業における安全、高品質な鉄鋼石の安定した供給、これらが揃って始めてプロジェクトの成功といえるのである。

プロジェクトパートナーから
学び、
新しいプロジェクトを
担う人材を育てる

豊富な経験があり、過酷な労働現場で安定操業を維持するプロジェクトパートナー、世界最大の鉱山会社のBHPはリーダー的存在だ。世界各地のオペレーションを通して成功した事例を西オーストラリアの鉱山にもいち早く取り入れる。小野澤はそんなBHPに敬意を表すと同時に、対等にコミュニケーションできることにやりがいを感じている。「鉱山業をやっていく上ではBHPを見習う点が非常に大きいので、そこで得た色々な知識と経験を、新しいプロジェクトに生かしたいと考えています」(小野澤)。

さらに小野澤は、今回のプロジェクトを通して鉱山業を理解する人材を育てることは大切な使命であり、菅原にも経験を生かして次の人を育てて欲しいと期待を寄せる。オーストラリアに駐在経験がある菅原は、今回のプロジェクトでもその当時の人脈が役立っているという。同時に、大きな規模・収益に貢献できる今回のプロジェクトの一翼を担うことができることに感謝している。「世の中の経済活動の一番の根幹を担う鉱物資源を、自分の仕事を通じて身をもって感じることができ、非常にやりがいがあります」(菅原)。

先人の努力を引き継ぎ、
未来へとつないでゆく100年の夢

西オーストラリアの鉄鉱石事業に伊藤忠商事が参入した1960年代当時の投資割当は3%であったが、その後先人の努力によって現在の8%にまで伸ばすことができた。だからこそ今回のサウス・フランクの新規鉱山開発プロジェクトにもつながったと、小野澤も菅原も実感している。そして先人への感謝の気持ちが、二人をさらに大きな目標へと駆り立てる。「オーストラリアの鉄鉱石全体では、まだ開発していない埋蔵量と合わせると、あと100年以上は事業として続くだろうといわれていますが、それに甘んじることなく、新たな屋台骨になるような、新規の案件をやってみたいというのは長期的な目標ですね」(菅原)。また、「今の案件は、パートナーが世界でもトップクラスであるだけに、投資ポーションが小さめで相手に販売を任せていますが、今後の新規案件では、僕らが投資とトレードのどちらも担いたいと考えています」(小野澤)。

ビジネスは、過去にどれだけ収益をあげたとしても、時代に合わなければ必要とされなくなる。菅原は、色々なことができる総合商社ならば、過去の成功体験に凝り固まらず、時代に合わせた新しいビジネスモデルを生み出すことができると入社当初から魅力を感じている。「鉄鉱石は、過去からの努力が大きな収益につながっていますが、今の時代だからこそ、目先の利益だけではなく、先見性を意識しています」(菅原)。新規案件となればマニュアルもルールもない。伊藤忠商事では、若手からベテランまで、それぞれが新しい発想で、伸び伸びトライできる土壌がある。投資額が巨大な資源の世界となれば他社ではトップダウンとなるケースが多いが、伊藤忠商事にはあてはまらない。「チームで取り組みますが、伸び伸びと活発に、自由な発想で、みんなでやろうぜという感じですね」(小野澤)。今後100年にわたる新規鉱山開発プロジェクトに託す夢を、50年にわたる鉱山事業の伝統と、伊藤忠商事の自由闊達な気風によって実現していくことは想像に難くない。