エネルギー・化学品カンパニー

Project

カスピ海鉱区・西クルナ鉱区
における原油の開発・生産

アゼルバイジャン及び
イラクの油田開発事業

 
  • エネルギー・化学品カンパニー
  • 石油・ガス開発部
    CIS・中東・米州事業課長
石橋 周央Suou Ishibashi
 
  • エネルギー・化学品カンパニー
  • 石油・ガス開発部
    CIS・中東・米州事業課
勝田 先紀Motoki Katsuta
石油・ガス開発部が参画しているアゼルバイジャン共和国カスピ海域ACG(アゼリ・チラグ・グナシリ)油田は、日量約60万バレルと世界有数の生産量を誇る。またイラク南部に位置する西クルナ1油田は、可採埋蔵量200億バレルと推定される世界最大規模の陸上油田だ。どちらも巨大油田であることから、伊藤忠商事の中長期的な安定収益に貢献することが期待されている。この2つのプロジェクトの資産管理に携わる石橋と、西クルナ1プロジェクトのフォローに関わる勝田。参画するまでの苦労話やそれぞれの仕事に対する想い、今後のビジョンなどについて語ってもらった。
なぜ今、イラクなのか
意義説明や安全対策に苦戦

伊藤忠商事が西クルナ1プロジェクトに参画しようと考えたのは2016年6月。当時のイラクは過激派組織による犠牲者が続出している状況であり、伊藤忠商事も実質的にバグダッド事務所を閉鎖していた。当然ながら周囲には「なぜ今、イラクなのか」と言われた。「苦労したのは、社内外の関係者に対する案件参画への意義説明と協力要請です。ありとあらゆる情報源から情報を入手し、分かりやすく相手に説明することを心がけました」(勝田)。「イラク政府には英語を話せる人ばかりがいる訳ではなく、通訳を介してのコミュニケーションには苦戦しました。またイラク政府は依然、組織として権限/役割の分担が確立される過程にある印象で、事の大小に関わらず意志決定にはとても慎重で、時間もかかりました」(石橋)。結局、英蘭Royal Dutch Shellとの売買契約締結からイラク案件への参画までには約14カ月の歳月が費やされた。

大変な思いをしたのはそれだけではない。例えばイラクの首都バグダッドは外務省が認定する危険レベルが最も高い4。(危険レベル4:退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告))そのため出張のたびに人事・総務部へ申請する必要があり、社内でも安全に万全を期すための対応が見直された。グループ会社の保険会社と提携し、出張時に付保する保険が新たに検討されたのもその一つだ。さらに出張前はもちろん、イラクに到着してからも現地の日本国大使館と密に連絡をとる必要があった。「イラク側の関係者は前日にならないとアポがとれないこともあり、明日来てくれと急に呼ばれることもありました。休日も連絡を取り合ってくれた人事・総務部、保険会社や大使館等、社内外問わず様々な関係者の力をお借りして進めることができました」と、勝田は当時を振り返る。

先進国での失敗を教訓に
改めて戦い方を見直す

西クルナ1プロジェクトは、イラク政府に加え、リードコントラクターであるExxonMobil(米国)をはじめとした国際コンソーシアム(ExxonMobil以外のプロジェクトパートナーは、PetroChina(中国国営石油会社)、Pertamina(インドネシア国営石油会社)等)により油田の開発・生産操業が実施されている。伊藤忠商事は、日本政府機関であるJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)からの出資を仰ぎ、戦争・テロ等の非常リスクをカバーするために、NEXI(日本貿易保険)の海外投資保険を付保する等して、リスクエクスポジャーへの対応もきちんと行い、この国際コンソーシアムの一員として、この西クルナ1プロジェクトに携わっている。

他方伊藤忠商事がACGプロジェクトに参画したのは1996年。イラク案件が開始した2016年までにかなりの時間が経過した。その間に成功も失敗も経験したが、特に失敗したのは、参入障壁自体はあまり高くない先進国での取り組みだった。「可採埋蔵量を見立てるにしても、コスト削減をするにしても、石油開発会社とは技術面や人員数で勝負できなかった。こういった結果を踏まえ、アゼルバイジャン案件を含む過去の事例を何度もレビューし、自分達の強みの一つは、高い参入障壁のある案件に敢えてチャレンジし、むしろ技術面でのリスクを最小化することにあるという考えに至ったのです。イラク案件もまさにこの整理に則ったものであり、これを実現する為にも、戦争が起きた時に備えてNEXIに非常保険をかけること、JOGMECに一部リスクシェアをしてもらうといったアプローチをとことんまで掘り下げました。勿論、講じた方策はこれだけではありません。何れにせよ、タイムラグはありましたが、改めて自分たちの戦い方を再認識する良い機会になりました」(石橋)。

またこの国際コンソーシアムの一員として参画してからがまさに本当のスタートであった。プロジェクトパートナーは、一企業としてではなく、それぞれ自分たちの国を背負って参加している為、一筋縄ではいかない。「リーダーであるExxonの思いと、伊藤忠商事、PetoroChina、Pertaminaの思惑が異なることもあり、パートナー間でもコンセンサスをとるのが難しかった。譲れないものは譲れないと、時にはガチで喧嘩をしたこともありましたね。でも、国籍、立場を越えた議論を踏まえて、最適な解を求めていくことが、石油開発の面白さでもあります」(勝田)。

国と対峙し議論する醍醐味と
原油安定供給に貢献できる喜び

プロジェクトを遂行する中で様々な問題に直面した2人だが、石油事業に取り組む魅力は総じてどこにあると感じているのだろう。「私たちが投資する案件は扱う金額がとても大きく、西クルナ1で言うと約550億円。民間企業が取組むにはあまりに大きすぎることから、そのうち4割は国のサポートをお願いしました。他方、石油事業は、途上国が経済発展を考える上でのマスタープランを描きやすい商材でもあり、相手の国と向き合うことにロマンを感じます。石油事業の発展がその国の人々の暮らしの向上に繋がりますので、やりがいも大きいものです。また、慈善事業ではありませんので当然利益を追求しますし、相手国の交渉担当者も自分達の立場を踏まえ、様々な要求をしてきます。だからこそ真剣な議論が生まれますし、ここから解決策を導き出すことがまさに醍醐味ですね」(石橋)。

「学生時代にエネルギーに関して学び、資源の少ない日本が世界で生き残るにはどうすれば良いかを考えていました。豊富な埋蔵量を誇るイラクの油田開発が成功すれば、我が国への原油安定供給に貢献できます。以前携わったロシアのプロジェクトでは、パートナーの会社がみるみる大きくなり、石油開発によって街や国が豊かになっていくことを間近に感じました。そうした様子を長期的な視野で定点観測できるのが面白いです」(勝田)。実は、勝田は新入社員の頃に石橋の直属の部下だったことがある。今回のプロジェクトで10年ぶりにタッグを組んだ2人。石橋は勝田を見て「お互いに成長したね」と笑い、「商社に入ってくる人間は自己実現の手段を仕事にしていることが多いと思います。勝田は熱意を持って仕事に取り組んでくれるし、自分の意見を率直に言ってくれるので議論もできる。このように真剣勝負ができる存在に育ってくれたことが嬉しい」と加えた。勝田も「若手の頃から責任ある仕事を任せてもらえたので、多くのことを学ぶことができました」と言い、今再び石橋と同じプロジェクトで活躍できることの喜びを噛み締めた。

総合商社としての強みを
次世代のビジネスにつなぐ

2018年3月に参画したばかりの西クルナ1油田開発は、ようやく通常運転を開始したばかり。同プロジェクトは10年以上も続くものであり、今後の原油生産量拡大のために目の前のできることを一つひとつクリアしていこうとしている。「バグダッドの空港を下りて道路に出ると、そこはボロボロだったり信号機がなかったりする。だからビジネスチャンスは山ほどあります。石油会社の場合は『道路が酷いな』で終わってしまうかもしれませんが、総合商社の場合はあらゆる事象をビジネスチャンスに繋げていくことができる。先方が必要とする提案をして信頼関係を築き、国のマスタープランを一緒に描く、そんなストーリーが理想です」(石橋)。

ACG油田にて生産された原油は、主に伊藤忠商事が出資するBTCパイプラインを通じてジョージアを経由しトルコの地中海沿岸に送られ輸出されているが、西クルナ1プロジェクトでも同様な取り組みができるのではと考えている。「西クルナ1は世界有数の油田であり、本来は現在の3倍以上の生産量が期待できますが、現在はパイプラインの容量が足りないことから生産量を抑えざるを得ません。本来の生産量を産出できるよう整備する必要があります。私たちが日本政府と一緒にできることは何かを考えていくことが、本件における今後の使命だと思っています」(勝田)。パイプラインの建設などインフラ整備に関しては、機械カンパニーにより深い知見がある。多様な横の繋がりこそが総合商社の強みであり、次世代のビジネスに繋がることは間違いない。