住生活カンパニー

Project

物流倉庫を対象としたJ-REIT組成で、
新たなビジネスモデルを確立

新規J-REIT(不動産投資信託)の上場

 
  • 住生活カンパニー
  • 建設第二部 建設第三課長
石原 靖史Yasushi Ishihara
 
  • 住生活カンパニー
  • 伊藤忠リート・マネジメント㈱
    出向
吉田 淳治Jyunji Yoshida

2004年、伊藤忠商事は本格的な物流倉庫の開発をスタートさせた。開発にあたっては、徹底して顧客ニーズを汲み取り、顧客の声を反映するという総合商社の原点を強く意識した。顧客目線の仕事ぶりから着実に業績を伸ばし続けた結果、2017年には事業拡大を発表し快進撃は今なお継続中である一方、変革期を迎えていた。それは、従来の「土地購入⇒倉庫開発⇒外部投資家に売却」という資産短期回転型のビジネスモデルから、REIT(※)組成による「物流倉庫のバリューチェーンの確立」という長期保有も可能となる新しいビジネスモデルへの転換というチャレンジだ。2018年9月にJ-REITに上場したこのビッグプロジェクト、担当した石原と吉田の2名にその全貌をうかがった。

※(J-)REITとは:多くの投資家から集めた資金で、オフィスビル、商業施設、マンション、物流倉庫等複数の不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する金融商品。投資信託の一つであり、証券取引所に上場することができる。

「御用聞き」をモットーに
商社ならではの戦略で挑む

伊藤忠商事による物流倉庫を投資対象としたJ-REIT上場プロジェクトは、2013年に基本構想が打ち出された。2005年に上場した住宅系REITに続く、次の攻めを担った上場プロジェクトとなる。REITの上場に際しては不動産の知識はもとより、投資市場や金融市場等の知見も求められる。担当の中心となったのは、住宅系REITの上場にも携わり、多くの物流倉庫開発実績を有する石原と、銀行への出向経験もあり金融に精通した吉田の2人である。2人の役割分担は明確だ。まず石原が伊藤忠商事側で物流倉庫物件を開発し、テナントが入り安定稼働した後に、吉田の出向先である伊藤忠リート・マネジメント(株)が運用するREITに売却する。石原から物件を買い取る立場の吉田は、倉庫に入居するテナントから受領する賃料を配当原資として、物件をREITに組み込む。

「伊藤忠グループがスポンサーとなるREITが物流倉庫を購入・運用することで、売却益だけに依存していた従来のビジネスモデルから、保有収益・管理収益といった安定収益も取り込むことが可能となります。加えて、顧客・テナントと継続的な関係を構築することができ、そこから新たな倉庫開発ニーズを取り込むことなど、中長期で収益を生むビジネスに拡張できるのです」(吉田)。「伊藤忠商事の最大の強みは顧客ネットワーク。倉庫に入居いただくテナントとのリレーションは大きな財産であり、不動産のみならず商社としての多岐に亘る分野で新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります」(石原)。物流倉庫の新しいビジネスモデルはここから始まった。

拡張的協働関係がキーワード
シナジー効果を目指す

伊藤忠商事が開発する物流倉庫は「i Missions Park / アイミッションズパーク」という名称に統一されている。これには、「地域の商流・物流を支え、顧客や社会に長期かつ安定的な貢献を果たしたい」という会社の「使命」(Mission)に重きをおく意味が込められている。2004年に本格的な物流倉庫の開発を開始しこれまで約30物件、約140万平方メートルの倉庫開発を推進してきた実績は、こういった経営理念をベースに積み上げられてきたものだ。同じ経営理念をシェアしながらも、物流倉庫を売る側の石原と、買う側の吉田の関係は、およそ相反するものだった。石原は、「長期的に市場から評価してもらえるようなREITを作るという方向性は同じですが、物件売却の条件交渉では利害が相反する関係。当然のことながら、お互いが所属する組織の利益を重視すべき立場であり、この点については妥協することなく厳しい交渉となりました。私の方が先輩なので時には厳しい言葉で譲歩を迫ることもありましたが、吉田は一歩も引かなかったですね」と笑い飛ばす。「立場上、対立することもありましたが、生意気な自分の意見をしっかりと受け止めていただきました」と、感慨深く思い出す吉田。

2人は立場の違いから衝突を繰り返すも、お互いが「良いREITを作り、新しいビジネスモデルを確立したい」という共通する信念を持っていた。だからこそ、プロジェクトを成功へと導くことができたのだ。伊藤忠商事は今回のREITプロジェクトの中で「拡張的協働関係」をキーワードに挙げているが、石原と吉田の二人の関係性はミクロ的ではあるがこの言葉を体現しているだろう。伊藤忠商事が有する「不動産・物流」と「商社・商流」という二つのプラットフォームで開発・リーシング・管理しながら、REITで長期に亘る保有・運用を行う。そして、顧客・テナントとの関係強化を図りながら、新たな物流倉庫の開発・リーシングにつなげていくサイクルが、「拡張的協働関係」だ。

「現場主義」を徹底し、
総合商社ならではの価値を提供

石原と吉田は2年程前に同じ部署で働いていた経験がある。吉田がREIT運用会社への出向前の準備として短期間石原の下に配属されたのだ。それまで2人の業務上の接点は殆ど無かった。当時、石原の部署では、担当する物流倉庫に入居するテナントの契約キャンセルが発生し、想定通りにテナント料を得ることができず、資金繰りに苦しんでいた。借入金の期限到来に際し、調達条件の大幅な変更に迫られ、プロジェクトを進めるためには新たに銀行からの資金調達が不可欠だったのだ。「吉田が金融に精通しているのは知っていたので声をかけると、誰もが嫌がる仕事なのに二つ返事で引き受けてくれた」と石原は当時を振り返る。「銀行への出向経験もあったので、自分がやらないといけないと感じました」と吉田は当時の心境を語る。それからというもの、2人は苦難を乗り越えるために、時には週末も返上して働き、銀行、パートナー等の関係者と折衝・調整し何とかやり遂げた。「交渉の過程で何度も難局を迎えましたが、共に知恵を絞り、汗をかき、乗り切ることができました。吉田への強い信頼は、苦労を共に乗り越えたその時の共有体験がベースにあります」(石原)。

今回のプロジェクトにおいても産みの苦しみはついてまわる。その1つが、総合商社である伊藤忠商事がスポンサーとなる物流系REITの魅力をどのように投資家に訴求していくかという点だ。「大手デベロッパーがスポンサーとなる物流系REITが多数存在する中で、『総合商社ならではの強み』を投資家に分かりやすくアピールしていく必要がありました」(吉田)。「テナントの中には単なる倉庫スペースの提供だけではなく、商材提供、顧客紹介やサービス提供など、総合商社の様々な機能の提供を求める会社もあります。『御用聞き』としてそのニーズを汲み取り、求められる機能を提供できればテナントの満足度向上にもつながります。多種多様な機能を有する総合商社だからこそできることですね」(石原)。伊藤忠商事の原点ともいうべき「現場主義」を徹底し、顧客ニーズをとことん掘り起こした。顧客訪問回数は1年間で約800回にも及ぶ。

伊藤忠商事の仕事の魅力、面白さについて石原は「他社だと機能別担当制になっているところも多いのですが、伊藤忠商事の場合は土地取得から売却まで一気通貫で案件に携われる醍醐味と面白さがあり、社会貢献に携わった嬉しさも感じられます」と言い、吉田は「私が所属する伊藤忠リート・マネジメント(株)も、全員が何でも屋として幅広く業務をカバーしながら働くスタイルです。社員数が20名にも満たない少数精鋭の会社ですが、上場という大きなイベントを達成できたのはそういった個の力と組織の力が上手く融合できたからだと思います」と語る。

REITを次世代商品に
新たなビジネス展開を模索する

吉田は「REITは既に船出しましたが、多くの投資家は、総合商社である伊藤忠商事の多岐に亘る機能を活かしたREITの成長を期待しています。具体的な成果を着実に積み上げていきつつ、今後もIR活動等を通じてその強みをアピールしていきたいですね」と述べる。今回のREITは2018年9月に上場したため、現在は運用フェーズに入っている。他REITとの差別化を図る戦略などさらなるステップアップに向かっていると言えよう。「伊藤忠商事らしい現場主義の精神で、今後も潜在ニーズの把握に努めていきます」(石原)。伊藤忠商事が目指すREITは、生活消費関連ビジネス大手としての「商流」と、総合商社の総合力があるからこそできる顧客ニーズの把握の、シナジーの発揮といえる。その可能性は無限大だ。